東京高等裁判所 平成9年(ラ)1554号 決定 1997年10月14日
抗告人
有限会社X
右代表者代表取締役
甲野一郎
右代理人弁護士
小山智弘
主文
一 本件抗告を棄却する。
二 抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一 本件抗告の趣旨
「原決定を取り消し、本件売却許可を不許可とする。」との裁判を求める。
二 本件抗告の理由
別紙「抗告の理由」に記載のとおりである。
三 抗告理由についての当裁判所の判断
1 本件記録によれば、本件土地上に件外建物が侵入していることは、本件土地の内部に立ち入って調査しなくとも、本件土地の間口が約一二メートルであることを知った上で(本件土地の間口が約一二メートルであることは、現況調査報告書及び不動産評価書によって知ることができる。)、外部から観察すれば、判明するものと認められる。したがって、抗告人には「責めに帰することができない事由」がなかったとはいえない。
執行官が右事実を見落したことは、その過失であったといえる余地があるとしても、この事実は、直ちに抗告人に過失がなかったことの根拠にはならない。
2 本件記録によれば、本件土地は、その南側が全面的に公道に接していることが認められるから、件外建物が存在する位置に照らして、その存在は、本件土地・建物の利用によって重大な制限になるとはいえない。
また、件外建物の所有者小林わかが、本件土地の所有者であった小林三廣(本件建物の所有者であった長資産業株式会社の代表取締役でもある。)の実母であることは、現況調査報告書の記載によって明らかである。
さらに、件外建物が侵入していることによって本件土地のうち約一〇坪の利用ができなくなるという証拠はない。
以上の事実によれば、本件損傷が軽微でない損傷であるとはいい難い。
3 以上のとおりであるから、抗告人の本件売却許可決定取消の申立を却下した原決定は相当であり、本件抗告は理由がない。
よって、これを棄却し、抗告費用を抗告人に負担させることとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 矢崎秀一 裁判官 筏津順子 裁判官 山田知司)
別紙抗告の理由
1 抗告人は、平成九年四月二八日、別紙物件目録記載の土地、建物の売却許可決定を受けて買受人となった。
ところが、本件土地上には件外建物が侵入しており、間口が約二メートルも狭くなり、面積も約一〇坪少なくなる。
2 原決定は、現況調査報告書、不動産評価書を見た上で、本件土地建物の所在する場所に赴いて見分すれば、本件件外建物の一部が本件土地上に侵入していることが容易に判明したことが確認できるとして、買受人に「責めに帰すべき事由」がなかったとはいい難いとする。
しかし、買受人にとっては、入札するに際して、本件土地内部への立ち入りは困難であることに加え、境界線を確定して判断することは不可能に近い。買受人は、原則として、物件明細書、現況調査報告書及び不動産評価書を基に判断せざるを得ないのである。
逆に、原決定が本件件外建物が存在することが容易に判明するというのであれば、職権調査権を有する執行官が現況調査報告書において敢えて記載していない事実をどのように説明するのであろうか。しかも、原決定の認定によれば、現況調査報告書の写真五七・五八によれば、本件建物の東側に接着して件外建物が建てられている様子がわかるといいながら、何故に現況調査報告書においては上記件外建物に関する何らの記載もなされていないのであろうか。
執行官は職権調査等の権限があり、本件土地の内部に立ち入って調査することが可能であるにもかかわらず、これを怠って現況調査報告書を作成したといわざるを得ず、そこには重大な過失があるというべきである。
以上の次第で、買受人に対して件外建物の存在を調査確認すべきことを要求するのは不可能を強いるものに等しく極めて酷である。
そもそも、執行官ですら見落した事実に鑑みれば、買受人の責めに帰すべき事由はないというべきであり、この点で原決定の判断は誤った違法がある。
3① 本件土地の面積は208.95平方メートル(約六三坪)であるところ、前述のとおり、約一〇坪しかも本件土地建物の通路部分を利用できないことは、本件土地建物の利用にとって重大な制限となり、原決定がいうような僅かな部分の侵入であるとは断定できない。侵入の割合もさることながら、著しい利用制限を受けるということも十分考慮すべきであるところ、原決定はこれを全く無視している。
② 原決定は、断定は避けなければならないとしながら、憶測だけで親族関係にあるから件外建物の所有者はその占有権原を買受人に対抗できない蓋然性が強く、結局は買受人は本件土地全体を使用することができる可能性が強いとして、抗告人に不利益な判断をなし、結局は断定しているものに他ならない。
そもそも、原決定は、裁判所調査によると件外建物の所有者と本件土地建物の所有者との親族関係にあるとしているが、本件事件記録上このような事実は出てこない。さらに、どのような親族関係にあるかも不明である。
③ また、原決定は、以上の損傷は競売市場修正として三割の減価がされているというが、到底右減価で補填できるものではない。
④ したがって、本件土地に著しい損傷があるというべきものである。この点でも判断を誤った原決定は違法である。
そもそも、本件問題点は、現況調査報告書を作成する段階で、通常要求される調査を怠ったうえ、不動産評価書及び物件明細書作成においても調査を怠ったことに起因するものであり、通常の調査を行っていればこのような問題は発生しなかったことを十分考慮すべきである。
4 以上の次第で、民事執行法七五条により売却許可決定は取り消されるべきものである。